卵巣予備能の低下と胚の染色体異数性との関連

卵巣予備能の低下と胚の染色体異数性との関連

検査部の奥平です。
今回は、卵巣予備能の低下(Diminished ovarian reserve (DOR))を持つ女性由来の卵子の質(胚盤胞の染色体異数性)を検討した論文を紹介します。

Diminished ovarian reserve is associated with reduced euploid rates via preimplantation genetic testing for aneuploidy independently from age: evidence for concomitant reduction in oocyte quality with quantity
Fertility and Sterility 2021 Feb 12;S0015-0282(20)32623-6. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.051.

対象・方法
2010年から2019年の間に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校でのPGT-A検査に胚盤胞生検を用いた体外受精(IVFまたはICSI)周期を対象とした後ろ向きコホート研究です。合計1152人の女性(19~42歳)が1675周期の体外受精を行い、8073個の胚盤胞がPGT-A検査に用いられました。PGT-A検査で正倍数体の胚盤胞のみが胚移植に使用されました。DORの診断は、ボローニャ基準に従って行われ、1) 卵巣予備能検査での異常値、2) 以前の卵巣刺激で低反応だった、3) 高齢(≥40歳)または卵巣低反応症の他のリスク要因、のうち2つ以上の項目を満たすものとしています。

結果
225人の女性(20%)がDORと診断されました。DOR患者の平均年齢は39.5±2.7歳で、非DOR患者の37.0±3.4歳よりも有意に高かったです(P < 0.01)。また、DOR患者の胞状卵胞数、採卵数、成熟卵獲得数は、非DOR患者に比べて有意に低かったです(P < 0.01)。一方、年齢調整後の胚盤胞発生率は両グループ間で差はありませんでした(P = 0.42)。
胚盤胞のPGT-A検査の結果、正倍数性率は、非DOR患者(44.9%)に比べて、DOR患者(29.0%)では有意に低かったです(P < 0.01)。
一般線形化モデルで年齢とPGT-Aのプラットフォームを調整後、DOR患者では非DOR患者と比べて、胚盤胞が正倍数体である確率が23%減少することが示されました(aOR: 0.77, 95% CI: 0.65-0.90, P < 0.01)。
正倍数性胚盤胞を用いた単一胚移植では、DOR患者と非DOR患者の間で出産率に差はありませんでした(56.8% vs. 54.8%, P = 0.94)。

解説
DORを持つ女性は、同程度の年齢の女性と比較して、卵巣刺激への反応や妊孕性が低下します。DOR女性において、卵巣予備能の「量」の低下はよく知られていますが、その「質」に関してはよく分かっていませんでした。卵巣予備能の量については、抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査や胞状卵胞数の測定などで評価できますが、卵巣予備能の質(卵子の質)の評価は簡単には出来ません。そのため本研究では、卵子の質の代用評価としてPGT-A検査を用いて胚盤胞の異数性を調べています。その結果、DORの女性では、DORではない女性に比べて、胚盤胞の染色体数が正常である確率が減少することが分かりました。この結果は、DORの女性では卵巣予備能の質が量とともに同時に低下する可能性があるということを示しています。