妊娠前の父親の健康状態と流産との関係

胚培養士の奥平裕一です。

前回のブログで女性の肥満が流産のリスクを高めることをお話ししました。妊娠前の女性の健康が妊娠に大きく影響することはよく知られています。では男性の場合はどうでしょうか?男性の年齢が妊娠結果に影響することは明らかになっていますが、健康状態との関連はよくわかっていません。そこで、つい先日、妊娠前の男性のメタボリックシンドロームなどの健康状態と流産との関連を調べた研究が報告されましたので、ご紹介します。

Association between preconception paternal health and pregnancy loss in the USA: an analysis of US claims data.

Human Reproduction, deaa332, https://doi.org/10.1093/humrep/deaa332.

対象・方法

2009年~2016年までのアメリカの保険金請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究で、958,804例の妊娠を対象としています。父親の妊娠前の健康状態(メタボリックシンドローム診断(MetS)、チャールソン併存症指数(CCI)、個々の慢性疾患診断など)と流産(子宮外妊娠、流産、死産)との関連を調べています。MetSの要素には、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病などが含まれています。CCIとは、慢性疾患の合併に基づいて、患者の短期的な死亡リスクを予測するために開発された、加重スコアリングシステムです。

結果

958,804例の妊娠が解析され、その内の22%が流産に終わりました。母体因子を調整した後、流産のリスクは、男性の併存疾患の増加とともに上昇しました。例えば、MetSの要素を持たない男性と比較して、流産のリスクは、男性が持つ要素の数に応じて増加しました(1つ:相対リスク(RR) 1.10、2つ:RR 1.15、3つ以上:RR 1.19)。この結果は、男性を年齢層に分けて解析しても同様でした。特に、健康でない男性ほど、自然流産、死産、子宮外妊娠で終わる妊娠を引き起こすリスクが高くなりました。同様のパターンは、男性の健康の他の尺度(CCI、慢性疾患など)でもみられました。また、母体の健康状態だけではなく女性の年齢も用いて層別化すると、どの年齢層においても、1つ、2つ、または3つ以上のMetSを持つ男性の流産のリスクは同様に増加しました。

解説

著者らが知る限り、本論文は、併存疾患の数が増加している男性が妊娠した場合、流産(子宮外妊娠、自然流産、死産)に終わるリスクが高いことを示唆した最初の研究です。男性がメタボリックシンドロームの要素を増やしたり、CCIや複数の慢性疾患を増やしたりすると、流産のリスクが高まりました。興味深いことに、男性の健康状態の悪さは年齢の影響を超えており、不健康な男性の年齢層全てで妊娠への悪影響が観察されました。この結果から、精子形成に対する健康状態の悪さの悪影響は多因子である可能性が高く、したがって年齢よりも強い影響を与える可能性が考えられます。男性の健康と流産との関連の根本的な原因は不明ですが、精子のエピジェネティックな変化は、父親が子孫に影響を与える潜在的なメカニズムであることが示されています。父方の併存疾患によって引き起こされる精子のクロマチン構造内の変化が、流産や死産などの結果をもたらす胚発生および子宮内での発育中の欠陥につながる可能性があります。実際、父親の肥満、食事および喫煙は、精子のエピジェネティックプロファイルに影響を与える可能性が報告されています。

母体の健康は妊娠に最も重要なことに変わりはないですが、父親の健康もまた、妊娠前のケアに考慮する必要がありそうです。「コロナ太り」や「正月太り」に注意し、ご夫婦揃って健康に気を付けてお過ごしください。