クロトー(Klotho)遺伝子発現の低下と卵巣予備能低下の関係

クロトー(Klotho)遺伝子発現の低下と卵巣予備能低下の関係

医師の船曳美也子です。

Low KLOTHOM level related to aging is associated with diminished ovarian reserve

Xiaofei Xu,et al.Fetrility and Sterility 03 Nov 2020

今日は、クロトー(Klotho)という遺伝子発現の低下と卵巣予備能低下の関係の論文です。クロトーとは、日本人が発見し、1997年にNature誌に発表した遺伝子です。α、β、γのクロトー遺伝子からは、それぞれ3つのホルモン(FGF23、 FGF19、FGF21)の受容体に作用する蛋白ができ、脳、副甲状腺、腎臓で作用し、リンやカルシウム、糖、脂質、胆汁酸、ビタミンDなどの代謝を調整しています。また、Klotho遺伝子が短いマウスは短命で、動脈硬化など老化症状をみせたのに、Klotho過剰マウスは平均寿命が1,5倍のびていることから、長寿遺伝子、抗老化遺伝子と考えられています。

方法:①採卵でとれた卵子周辺の顆粒膜細胞の中のKlotho遺伝子をPCR法で抽出する ②血中のKlotho値を採血で調べる 

対象:卵巣予備力低下(DOR)群は、157名; AMH 1.1以下、 FSH 10IU/mL以上、AFC7以下、の条件の2つ以上をみたしている方。コントロール群は、AMH2以上、FSH10未満、AFC8以上、の159名。すべて40歳以下の方で、卵巣の手術既往のかた、子宮内膜症のかた、多嚢胞性卵巣の方は除外しています。

結果:DOR群は顆粒膜細胞内のKlotho遺伝子発現も、血中のKlotho値も有意に低いという結果でした。顆粒膜細胞内でのKlotho発現は74%減少しており、これは血中Klotho値では9.2年の減少に相当する、としています。

また、両グループのKlotho値と体外受精の結果を比較する検討もしています。コントロール群の顆粒膜細胞のKlothoの平均値をK/S=1としたとき、DOR群、コントロール群のそれぞれ、K/S≧1とK/S<1で受精率、着床率、臨床妊娠率を比較しており、受精率のみDOR群、コントロール群ともK/S≧1が有意に良いという結果がでました。

年齢とともにKlothoが減少することは確認できていますが、Klothoがどう加齢や卵巣予備力低下にかかわっているのか詳細はわかっていません。説としては、Klothoの減少で、卵胞発育、顆粒膜細胞発育、卵子成熟に関係するWnt/β-pathwayが抑制されることや、Klothoの抗酸化機能が低下すること、が考えられています。

では、どうすればKlothoが増えるのでしょうか?世界中の方が知りたいことでしょう。現在ままだわかっていませんが、一般的には、遺伝子発現に関係する一つは環境です。できることとしては、ストレスを避けたり、睡眠不足を避けたり、軽い運動をしたり、抗酸化力の高い緑黄色野菜をとったり、という一般的なことがいいのだろうなと思っています。