不妊と周産期

不妊と周産期

理事長の中村嘉孝です。

大阪府立母子保健総合医療センターに行ってきました。
今回は、所属しているボランティア団体から寄付の贈呈をするためでしたが、同センターには、仕事の上でもお世話になっています。

分娩を扱っていたときには、真夜中に妊婦や新生児を緊急搬送したことが何度もありました。また、胎児の心臓超音波検査に熱心に取り組んでおられる先生がおられ、当院の臨床検査技師も、同センターに通ってトレーニングしていただきました。

不妊治療を中心にするようになった今でも、センターの近くの方がめでたく妊娠されたら、分娩をお願いすることも、しばしばです。

そのような形で、皆様がめでたく妊娠され、無事に出産されるよう、それぞれの施設が役割分担をしながら、医療に取り組んでいるわけです。しかし、患者の視点からはわかりにくいでしょうが、実は産婦人科医の間には、体外受精専門クリニックに対して複雑な感情があります。
周産期を担う公的病院の医師には、民間の不妊クリニックに対して批判的、はっきりといえば、不快に思っておられる方が大勢おられます。

「自分たちはで過酷な当直体制なのに、不妊クリニックは楽。儲け主義の商売で、高齢出産や双子などのハイリスクをつくっては、面倒な後始末を押し付けている。」

よく考えれば、それは医療機関類型による役割分担の問題であり、公と民の活動の違いにすぎないと思うのですが、産科にかぎらず高次医療機関の医師の中には、自分が本当の医療を担っているという自負というか、特殊なメンタリティがあります。
だから、公的病院は道路や学校と同じで、社会のインフラにすぎない、という認識はもちにくいのでしょう。
ハイリスク妊娠を増やしているという指摘も、経済学的にいうと、単に「外部不経済」の問題に過ぎず、それに腹を立てるのは、的外れの正義感でしかありません。

とはいうものの、私も同じ医師として、そのような怒りや不快感は、心情的にはよくわかるのです。

オーク住吉産婦人科は、以前にこのブログで申し上げたような事情で分娩をやめざるを得ませんでしたが、分娩をしていた時と同様に、今も入院は残し、当直体制をとっています。
正直、採算面を考えると苦しいのですが、それが患者さまにとって、良いことであると信じているからです。

たとえば、妊娠の初期には、30%ほどの方が出血します。
当然、夜間や休日に起きることもしばしばで、体外受精の場合には、尚のこと心配でしょう。
切迫流産として、一刻も早く治療しなければならない場合もあります。
また、子宮外妊娠をはじめ、緊急入院が必要な例がたくさんあります。
もちろん、遠方から新幹線や飛行機で通っていただいている患者さまには、夜中に、「じゃあ、今から診察にいらして下さい」というわけにいかず、近くの救急を受診していただくようにしていますが、その場合でも、少なくともカルテを確認し、電話で適切な対応をアドバイスするようにしています。

もちろん、これらは患者さまにとってベストを考えての体制ではありますが、同時に、私どもが夜間対応していることで、少しでも公的医療システムの負担を軽減できれば、と願っているのです。