多嚢胞性卵巣での排卵誘発法

多嚢胞性卵巣での排卵誘発法

多嚢胞性卵巣(PCO:polycystic ovary) の場合、1回目の採卵で卵子があまり取れなくても、2回目以降劇的にとれることがある。

体外受精の周期に、卵子を数多く安全に回収することは、とても重要なことです。通常ならAMHの値やAFC(小卵胞)の数で刺激の強さ(注射の量)を調整しておけば、8〜9日間誘発すれば採卵できます。それが、PCOの場合は、卵胞の発育や卵子回収率が予測できません。

当然、多嚢胞、というくらいなので、卵巣内に小卵胞はたくさんあるし、AMHも通常よりかなり高いことが多く、「卵巣が若くてたくさん卵が取れそう」と思うのですが、注射を何日打っても反応せず、卵胞が発育しないのでキャンセルになったり、20数個も卵胞が発育したのでいざ採卵してみると、卵子が1~2個しか回収できなかったり、という結果になることがあります。

その反対に、卵胞ができすぎて、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になってしまうこともあり、とにかく、予想がつかない、というのが印象です。

ただ、経験的に、卵胞は多く発育するのに卵子がほとんど回収できない、つまり極端に回収率が悪い例の場合、続けて採卵すると、刺激法はまったく変えていないのに、しっかり回収できる(発育卵胞数の80%以上は回収)ということが多いです。

なぜこのようなことが起こるのか。

一つには、1回目の採卵によって、卵胞を何度も穿刺して卵胞液を回収していますが、この外科的な処置が、PCOの卵巣内部の環境の改善につながったということが考えられます。

というのも、PCOの治療として、以前から、卵巣の一部を切除する楔状切除が行われてきましたが、比較的最近では、卵巣に電気メスやレーザーでいくつか穴を開ける腹腔鏡下のdrillingなどが行われてきて、排卵の改善になるといわれてきました。ただ、これらの治療は、まず侵襲が大きいというデメリットがあります。侵襲を少しでも下げるために、経腟的にアプローチする方法もありますが、いずれにせよ卵巣の一部を焼いたり、切除したりするので、その後の癒着や、卵巣予備能の減少が問題となります。

2020年の論文、Reprod Biol Endocrinol. 2020 Jan 24;18(1):7. doi: 10.1186/s12958-019-0559-7.
Transvaginal ovarian drilling followed by controlled ovarian stimulation from the next day improves ovarian response for the poor responders with polycystic ovary syndrome during IVF treatment: a pilot study 

の中に、卵巣の反応が良くないPCO患者に、刺激の途中で経腟的に卵巣を数回穿刺し(これは採卵と同じ手技ですね)、そのまま翌日から継続して刺激を続けると、普通に卵胞が発育する、というものがありました。

この方法は、当院で経験的に導き出された方法とよく似ています。当院ではまず採卵して不充分な回収だった場合に続けてすぐに刺激、ということになりますが、まったく卵胞発育がなく、1回目の採卵をするに至らない例で、同様のことを試みてもいいかもしれません。これまでは、キャンセルになっていた例が、このやり方で発育する可能性があります。

なぜ、drillingがPCOに有効なのかはまだはっきりと分かっていません。卵巣に傷がつくことで高くなっていた卵巣内のアンドロゲン合成を妨げて下垂体のLH分泌が改善して卵胞成熟を可能にするという説、インヒビンやその他未知の卵巣内物質が関与しているという説などがあります。

いずれにせよ、今後は多嚢胞性卵巣の排卵誘発は予想通りにいかないことも多いのですが、もともと卵胞はたくさんあるわけですから、一回目の結果が思うような結果でなかったとしても、いろんな方法を試すことによって、その人に最適な方法を見出すことが大切だと思います。



【参考文献】