養子縁組

養子縁組

理事長の中村嘉孝です。

私が入っている慈善団体では、虐待児童を引き受けてくださる里親の方々も支援しています。

以前、里親団体が主催するシンポジウムに参加して、改めて気づいたのは、不妊の夫婦が里親になる事例が予想外に多いらしいことです。
その時も、私が不妊治療に携わっていることを申し上げると、自治体の方から「里親をすすめて欲しい」と言われました。産婦人科医会にも行政から、不妊治療のご夫婦に里親制度を紹介してほしいとういう依頼がされているようです。

このことを素直に考えると、子どもが欲しいのに恵まれない夫婦がいる一方、育ての親を必要としている子どもがいるわけだから、大変よい話に思えます。
しかし、不妊治療に携わる身には、若干の違和感の残る話でした。

一つは、ドナーとの関係があります。

不妊治療を受けている夫婦は、なにより遺伝的に夫婦の子どもであることを優先され、卵子や精子がないために妊娠ができない場合には、少なくとも一方の遺伝子が受け継がれるように、ドナーの卵子、精子を求められます。

また、子宮がないために妊娠できない場合は、代理母という方法があります。
ドナーや代理母についての倫理問題や法整備の問題はともかく、それらが医学的な解決法となります。

つまり、遺伝学的につながりのある子に対し、養子(里子)は次善の策ということです。
もちろん、養子として一旦受け入れた子に対しては、「次善」もなにも、実の子と何ら変わらぬ愛情を注ぐことになるわけですが、少なくとも不妊治療の段階では、患者が遺伝的につながった子を重視していることは間違いありません。
それらに対して、代理母、精子ドナー、卵子ドナーなどの解決法が存在するのに、医師から里親制度に言及するのは適切でしょうか。

不妊患者に里親制度を紹介するということに違和感を持つもう一つの理由は、里親になる目的についてです。

不妊患者の思いと、実子を持ちながら博愛主義による慈善活動の一環として行う里親の思いとは、根本的な隔たりがあるように思います。
すでに実子をもつ里親は、気の毒な他人の子を引き受けたに過ぎません。
もし、実の親が抱えている問題が解決し、里子が実の親の元に帰ることができれば、心から喜んで送り出すでしょう。しかし、不妊患者は、実の親とのかかわりもなく、できれば出生のいきさつも隠して、養子を育てたいというのが本音ではないでしょうか。

そう考えると、極端な場合にはドナー卵子とドナー精子を使って代理母に出産させることも、技術的には可能なのです。これは、新生児を養子にもらうのと変わらないが、実の親との軋轢をさけることができるという点で、不妊患者にとって、より望ましいことかも知れないのです。

それらを充分にお考えになった上でのことであれば、確かに、養子は不妊のご夫婦の1つの方法であり、尊い選択であると、私も思います。