
順に説明しますといいながら、今頃になってしまいすみません。月初に参加したセミナーの話です。
まず、彼らが繰り返し主張しているのはPGT-Aは無意味であるということ。
世界中でPGT-Aがこれだけ盛んに行われているのに訳がわからない、と思われるかもしれませんが、その主張は確かに理があるのです。
当たり前の話ですが、PGT-Aをしたからといって累積妊娠率が上がることはありません。どの胚を移植するか選んでいるだけで、胚を改善しているわけではない。(TEの手技自体によって着床率が変わる可能性については、別の話として忘れて下さい。)
そうすると、従来通りの形態評価で選別をしているのに比べて、どれだけ妊娠までの期間が短くなる=流産が減る、というのが本質的な話になるのですが、彼らのデータではさほど変わらない。
いや、PGT-Aでは染色体異常のある胚を避けることができるじゃないか。育たない、あるいは育っても染色体に問題があることがわかっている胚を移植しないのは当然では。
そう、思われると思います。しかし、結局、この10年ほどでわかってきたのは、PGT-Aの結果のグラフで染色体異常があるからと言って、結局、普通に育つものが相当数あるという事実です。
異常の結果が出た胚を恐る恐る移植してみたら、普通に元気な赤ちゃんが生まれてきた。その後の研究で、生命の始まり、つまり初期胚というのは混沌としていて細胞分裂のミスを次々起こしながら、一方で自然にそれらの細胞が淘汰されて正常部分だけに戻っていくという、神秘的と呼んでよいダイナミックなプロセスが展開されていることが分かりつつあります。

その中で彼らが問題にしてきたのは、廃棄。PGT-Aの結果のグラフで染色体異常があるからといって、これまで多くの胚が廃棄されてきました。そして米国ではPGT-Aを提供している大手の遺伝検査会社に対して、すでに集団訴訟が起きているというのです。
オーク会ではmosaicなどの問題には当初から気が付いていたので、たとえPGT-Aで異常があると出てもそれはあくまで確率問題であることをお伝えし、廃棄せずに保存することを原則的にお勧めしてきました。
もちろん保管には費用が発生するので、費用対効果といわれると仕方ないのですが、彼らのデータによるとchaotic(要するに全染色体に亘って滅茶苦茶なグラフで判定できない状態)でも3%の生産率があるといいます。
この数字自体の妥当性も検証しないといけませんが、なにより、常識を働かせよという彼らの主張は傾聴に値します。例えば、もう採卵できない症例の一個しかない胚をPGT-Aする意味などどこにもありませんが、そういうことを勧める事例が今でもあるようです。
ところで話は逸れますが、保険診療では保存している胚をすべて廃棄しないと次の採卵ができないので、最適な確率を計算しないと「損をする」ということになってしまいます。そもそも制度がおかしいのですが、仕方ないですね。
さてPGT-Aについて懐疑論だけを取り上げましたが、一方でPGTが次のステージに向かって進んでいるのも事実です。セミナーでは逆に、最も議論を呼ぶPGT-P(多因子遺伝疾患のリスク評価)の第一人者を呼んでレクチャーを聴きました。
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次回は、凍結胚移植についてです。これについては正直、私も昔は騙されてました。