
アメリカ・テキサス州サンアントニオで開催された「ASRM 2025(American Society for Reproductive Medicine)」では、世界中の生殖医療専門家が集まり、最先端の研究と臨床知見を共有しました。
今年は「遺伝」と「代謝」という、これまで別々に扱われてきた領域が生殖医療の中で深く交わり始めていることを実感する内容が多く、非常に刺激的な学会となりました。
私が聴講したセッションの中から、まずは「キャリアスクリーニング」と「遺伝カウンセリング」をテーマとした2つのセッションを中心に報告します。
“Is Bigger Better?”
このセッションでは、キャリアスクリーニング(遺伝性疾患の保因者検査)をどこまで広げるべきかというテーマが議論されました。
登壇したのは Invitae、Myriad Genetics、IVIRMA といった検査会社の専門家たちで、検査技術の進歩が著しい中、「より多くの遺伝子を調べることが必ずしもより良い結果につながるわけではない」という課題意識が共有されました。
希少疾患や軽症疾患、低浸透率(reduced penetrance)の変異を検査対象に含めるべきかどうかが取り上げられ、議論が白熱しました。
とくに「reduced penetrance の変異を報告する意義」に関して、臨床上の価値が高いとする意見が多く、報告を省略するとリスクカップルを見逃す可能性があることが示されました。
また、染色体転座の保因者についてのデータも興味深く、一般集団では 1/250 に対し、流産歴のある群では 1/19 と約10倍の頻度で見られるとの報告がありました。
さらに、モザイクターナー症候群では、モザイク率が 10%を超えると異数性率が上昇することが確認されるなど、検査の解釈には細かな注意が必要であることを再認識しました。
登壇者の一人が語った
“Carrier screening should not only detect more, but help us understand better.”
(キャリアスクリーニングは「より多く見つける」ことではなく、「より深く理解する」ことを目的とすべき)
という言葉が非常に印象的でした。
単に検査対象を広げるだけでなく、その情報をどのように患者に伝え、臨床に活かすか。今後の方向性を示唆するセッションでした。
次に聴講したのは、「Genetic Counseling(遺伝カウンセリング)」セッションです。この口頭発表では、検査後のカウンセリングにおける課題と、患者にとって“意味のある情報提供”を実現する方法が紹介されました。
近年、遺伝学的検査の普及に伴い、患者が得る情報量は飛躍的に増えています。 しかし「情報が多い=理解が深い」とは限りません。発表の中では、多文化社会におけるリスク説明の難しさや、AIを活用したリスク説明ツールの可能性も取り上げられました。とくに印象に残ったのは、
“Patients don’t need more information. They need meaningful information.”
(患者に必要なのは“情報量”ではなく、“意味のある情報”である)
という言葉です。
検査結果をどのように伝えるか、その内容をどう理解してもらうか。 カウンセラーが担う役割は、今後ますます重要になると感じました。日本でもキャリアスクリーニングが拡大している今、このテーマは非常にタイムリーであり、臨床現場に直結する示唆が多いセッションでした。
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