洗浄後の総運動精子数と人工授精の妊娠率との関連

検査部の奥平です。

人工授精は、排卵期に合わせて精子を子宮内に入れる一般的な生殖補助医療です。より高密度の運動精子を直接子宮内に注入することにより、妊娠率を高める目的で行われます。そのため、精液をそのまま注入するのではなく、精液を遠心洗浄し、精製した精子を治療に使用します。
今回は、人工授精時における洗浄後の総運動精子数と妊娠率との関連を検討した論文を紹介します。

Clarifying the relationship between total motile sperm counts and intrauterine insemination pregnancy rates.
Fertility and Sterility. 2021 Feb 17:S0015-0282(21)00035-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.014.

 

対象・方法
2002年から2018年の間に一つの施設で行われた、37,553人の患者による計92,471回の人工授精周期を対象にした後ろ向きコホート研究です。新鮮または凍結保存された精子を用いた単一の人工授精で、卵巣刺激を受けた全ての患者が研究に含まれています。洗浄後の総運動精子数は、最終精液量に総精子濃度と運動率を掛けて算出しています。卵巣刺激は、レトロゾール、クエン酸クロミフェン(CC)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、CCとFSHの併用によって行われました。一般化推定方程式(GEE)解析を用いて、個々の患者による複数の周期を考慮し、女性の年齢、BMI、刺激方法を調整しています。

結果
妊娠率は、洗浄後の総運動精子数が9百万以上で最も高く、総運動精子数が減少するにつれて徐々に低下しました。

調整後のGEE解析のためのデータは、26,995人の62,758周期から得られました。女性の平均年齢は34.5±4.5歳、平均BMIは26.2±6.1、平均周期数は2.8±2.0でした。
総運動精子数が9百万以上の周期(46,557周期)を対象とした調整後のGEE分析では、9百万より数が増えても妊娠率に影響しないことが確認されました(P = 0.46)。
一方、総運動精子数が9百万未満の周期(16,201周期)における調整後のGEE分析では、総運動整数は妊娠率を高度に予測し(Wald χ2 = 39.85)、統計的に有意な減少が観察されました(P < 0.001)。また、総運動精子数が0.25百万未満に近づくにつれて、妊娠率は徐々に直線的に低下しました。

解説
洗浄後の総運動精子数と人工授精の妊娠率との関連は、過去にも研究されていましたが、研究間で結果が異なり、十分な結論が出ていませんでした。本研究は、合計92,471周期を検討した、この課題では最大規模の研究となっています。その結果、総運動精子数が9百万以上あれば妊娠に適していることが示されました。しかし、9百万未満の場合であっても妊娠率が急激に低下するのではなく、直線的に徐々に低下することが分かりました。興味深いことに、総運動精子数が0.25百万未満の周期でも、4.18%の割合で妊娠が成立していました。よって、著者らは、洗浄後の総運動精子数に関して、人工授精を推奨すべき特定のしきい値はなく、妊娠の予測値や治療前のカウンセリング材料として活用すべきと考えています。また、例え洗浄後の総運動精子数が少なかったとしても、妊娠の可能性がある限り、その周期の人工授精は中止しない方がよいと思われます。